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2022年05月20日 [お役立ち情報]

弁護士が分かりやすく解説「残業代対策としての完全歩合給について」(パート1)

こんにちは。弁護士の鈴木です。2020年4月の民法改正を受け、残業代請求権の消滅時効が2年から3年に延長されました。つまり2020年4月分の残業代請求権は、民法改正前であれば2022年5月に時効消滅していたものが、時効消滅しない形になるのです。

また2023年4月以降は、これまで適用が猶予されていた中小企業についても、月60時間を超える残業代については25%増しではなく50%増しとなる改正がいよいよ適用されることになります。

そこで今回は、時間外労働についての残業代をコントロールする手段の一つとして「残業代請求権〜残業代対策としての完全歩合給〜」をテーマに、パート1&パート2と2回にわたってお話しします。顧問先からの質問を例にQ&A形式でご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。





【顧問先A】:鈴木先生、こんにちは。今日は、残業代規制に関することでご相談があります。「残業代請求権の消滅時効」が3年に延びたり、弊社のように適用が猶予されていた中小企業についても2023年4月以降は月60時間を超える時間外労働につき50%増しの割増賃金を支払わなければならなくなることから、当社としてはより慎重な対応をするべきだと感じています。何かアドバイスや、必要な対策などはありますでしょうか?

【弁護士(鈴木)】: そうですね。以前Aさんともお話ししましたが、「国際自動車(kmタクシー)」の<採用していた歩合給から残業代相当額を差し引く制度を巡る訴訟>では、2020年3月30日に労働基準法に違反するとの最高裁判決が下されましたよね。

概略で説明すると、「基本給及び歩合給を定め、これらに対する時間外労働などの割増金を算出した上で、この割増金に相当する額を歩合給から控除する」という賃金体系は、時間外労働などに対する対価である割増金を労働者に負担させているに等しい(労働者に支給すべき歩合給から控除しているから)、時間外労働などに対する割増金が大きくなると歩合給がゼロとなる場合もある、などとして労働基準法違反としたものです。

これを踏まえ、むしろ「完全歩合給を採ることが残業代未払いの対策になる」という考え方をベースに、今日は一つの提案をしたいと思います。

【顧問先A】:弊社のような運送業のほか、不動産業や保険業など営業成績を給与に反することが馴染む業種については、有益な提案ということですね。では、具体的に教えていただけますか?



【弁護士(鈴木)】:はい。まず、固定給は@所定労働時間で除してA1.25または1.35を乗じたものを残業代とするのに対し、歩合給は@“総労働時間で除してA‘’0.25または0.35を乗じたものが残業代になるため、歩合給で残業代をカウントした方が5分の1以下になるという考えがベースになります。

例えば、月収30万円でも、固定給で30万円の場合と、売上100万円の30%で30万円の場合とで、月の所定労働時間160時間、時間外労働時間40時間の例で考えてみます。

■固定給の場合:30万円÷160×1.25×40=93750円の割増賃金を支払わなければなりません。

■歩合給の場合:30万円÷(160+40)×0.25×40=15000円の割増賃金を支払えばすむことになります。




【顧問先A】: なるほど、歩合給にするだけで、残業代の割増賃金は全く異なる数字になるのですね。固定給をなくし、完全に歩合給制を導入するにあたって、何か注意点はありませんか。

【弁護士(鈴木)】:はい。新人など売上を全く上げられず歩合給が発生しなくなってしまう場合には、最低賃金法に違反してしまうことになります。ですので、最低賃金を固定給とし、それに対する時間外労働についての割増金は、最低限支払わなければなりません。ですので、労働者に対する労働時間の把握はしなければならず、完全歩合給だから労働時間を把握しなくてもよいことにはなりません。

なお、労働基準法27条では<出来高払制の賃金体系を採る場合、最低保障をしなければならない>とあり、こちらは最低賃金とそれに対する時間外労働についての割増金、以上とする必要があります。さらに、発展した完全歩合給の制度設計も検討しているのですが、そちらは、また次回のお話としましょう。(第2回は5/27に公開します。お楽しみに!)
(弁護士 鈴木 洋平)

※本記事は2022 年5月20日時点での情報をもとに作成しております。
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